年をとらない不思議な少女   NO.01
=== 出会い ===      (1962.春)       作:茫 格
 春とは言え、まだ肌寒い日の朝、その少女はグラウンドを素足で走り回っていた。昭和37年4月、人口40数万人の城下町として歴史ある地方都市の中学校の朝である。
 新年度を迎え、最上級生となった美和はなんとなく落ち着かず、窓際の席からボーっと意味もなく視線をグラウンドに向けていた。
 時は団塊の世代を迎え、1クラス53名程度の合計11クラスからなる三年生であった。クラス替えのため、多くの生徒が見知らぬクラスメートの中にいたのであろうが、美和にとっては、この中学校で耐え難い5年目の春を迎えていた。
 美和は3人兄弟の長男であり、美和久という名前でこの世に生を受け、既に17年有余の時を過ごしていた。陸上競技等で活躍するスポーツ好きの少年は、ある日突然悪夢に襲われ、満足に歩くことすら困難となり、病院へ送り込まれていた。日々の無理がたたり、重症の椎間板ヘルニアと診断されたのである。当時、抜本的な治療方法が適用されなかったのか、多感な時期にあった美和が、病院の指示に素直に従わなかったのか、自暴自棄に陥り悪化を深める美和の心同様に、病状も明るい回復の兆しを見せることはなかった。これが美和にとってこの後、数奇な運命を辿っていく単なる序章にすぎなかったとは・・・。
 美和の父は、他校の中学校の教頭職にあった。彼が息子久の対応にどのように苦悩していたのか、今となっては知る由も無い。ただ、母親は人目を避けていつも泣いていた・・・という話を後年周囲の人に幾度となく聞かされたが・・・・・・。父は出席日数不足のまま、高校へ進学することを由とすることを許さず、美和は激しい葛藤のすえ3年1組の椅子に座っているのである。(後年、クラス担任は父親の数少ない昔の同級生であったことを知り、虚しさの増幅を覚える美和であった。)
 数日後、いつもの通り3年1組の指定席でボーっとしている美和の窓越しの前に、数人の女の子が駆け寄ってきた。突然、名前すら知らない彼女らの口から矢継ぎ早に発せられる言葉は「N中の子たちと何してんのよ!」と身に覚えの無い非難の言葉ではあったが、美和は困惑と同時に、新鮮な心地よささえ感じていた。その中のリーダー的存在は、紛れも無く数日前グラウンドを素足で走り回っていた少女だった。
HP用に固有名詞等を修正して順次公開しております。長編のため、予定が大幅に変更になることが考えられますが、ご了承ください