◇ J1編成走行試験/光触媒コーティング遮熱効果維持試験 ◇


新幹線車両屋根上への光触媒コーティングによる遮熱効果維持

||||| 冷房コストを抑える |||||

夏季晴天時の日射による熱侵入により、新幹線車両の冷房負荷増大を防ぐため 、700系車両では空調能力の向上を図った。 しかし、300系車両の空調能力を向上するには、ダクトや機器のスペース、質量、コストなどの課題があり車両改造も必要になるため実施困難と されていた。

  そこで車外からの熱侵入を低減するための業務研究が浜工、東二両で実施され、この成果として300系車両 には遮熱塗料による外板塗装が施されるようになった。

 J1が最初に遮熱塗料による外板塗装が施されたのは、平成11年3月23日〜4月14日間で 行われた4全検のときでした。それまでは300系の屋根は床下機器 カバーやパンタカバーと同じグレー色に塗装されていました。 この遮熱塗料はパールホワイト色の塗料そのものに混入されているため、この頃から全検出場した300系車両は屋根上までパールホワイトに塗られる ようになったのでした。

  300系の遮熱塗料外板塗装の施工が開始されてからも更に業務研究が続けられ、車両屋根上の汚損に伴う日射の反射率低下による 遮熱塗料効果低減が確認されました。そこで、車両屋根上の汚れをいかに防止するかが今後の課題となりました。車両側面は、車両洗浄装置で 定期的に洗浄されるが、屋根上部分は高電圧の架線に近いため車両洗浄装置が 使用できず頻繁に洗浄ができない。そこで技術開発部では、車両屋根上汚損防止のため光触媒のセルフクリーニングを 利用した汚損防止クリーニングに取り組んでいる。
▲J1編成13号車の屋根上に施された光触媒コーティング


屋根上の塗装比較
▼3全検後のJ1 ▼4全検後のJ1

||||| 表面をきれいに保つ |||||

光触媒には「セルフクリーニング」 というを を利用した自己洗浄能力があります。光触媒は超親水性という 特性を持っています。これの表面は水が薄い膜として広がるようになるため、この表面に汚れが付着しても水の膜が汚れの下に入り込んで汚れを 浮かすため雨がかかるだけで簡単に汚れを洗い流すことができます。また、光触媒には光が当たると有機物を分解する機能も持っており、表面に 付いた細かな油などの汚れは光が当たることで直接分解され、きれいな状態が保たれます。これぞ、エコパワー!

  しかし、光触媒のセルフクリーニング機能には、金属などを含む無機物の汚れや物理的に刺さっているような汚れには、効果がない。 そこで、屋根上に付着した汚れの成分を分析した結果半分以上の成分が炭素で、 他には鉄やケイ素などが含まれていることが判明しました。これによって新幹線屋根上の汚損に対して一定の効果が得られると判断しました。

||||| コーティング方法を検証 |||||

新幹線屋根上への光触媒コーティングでは、遮熱塗装の上に光触媒を塗布します。そこで問題が発生!光触媒はどんな有機物でも分解するので 、遮熱塗装の上に直接塗布すると有機物である塗装を分解してしまいます。そこで、遮熱塗装の上に保護層として下塗り剤を塗布し、その上から 光触媒を塗布する2層コート方式が必要となりました。

  光触媒コーティングは、建造物では多くの実績があるが輸送機器への応用はあまり進んでいないことから、現車コーティングの前に、 アルミ板の上に遮熱塗料を塗布し、その上に2層コート方式で光触媒コーティングを施したものを、促進劣化試験機を使用して耐久性の確認を 行いました。また、2層コート方式にすることで遮熱塗料の光沢や色彩が保護されることも確認できました。

促進劣化試験以外のコーティング試験では、光触媒コーティング塗布後、塗料膜の剥離やひび割れなどの問題が起こらないように、塗布工程や コーティング剤の条件を最適化しました。

||||| 現車へのコーティングを実施 |||||

コーティング試験での結果が良好だったことから、平成17年7月下旬、300系営業車1編成の 2両に光触媒コーティングを行い、他の車両との汚損状況の差を確認できるようにした。そして、毎交検ごとに経時変化と汚損状況を目視による 調査に加え、計測機器を使ってこれを行っています。

  J1には、平成15年9月11日〜10月2日の6全検時に13号車屋根上に試験的に光触媒コーティングが施されました。
現時点では光触媒コーティングの経時劣化もなく、コーティングしていない車両と比較すると、汚れの差がはっきりと確認された。光触媒に よる汚損防止効果については現在も継続調査を進めている。屋根上の光触媒コーティングの実用化を考えた場合、浜工の塗装工程を考慮すると コーティングに要する時間を大幅に短縮する必要がある。このため、短時間で効果の高い光触媒コーティングができるよう、今後も新たな車両用 コーティング剤・塗布工程の開発を進めています。

  左の写真は、6全検後の試運転を捉えたものである。屋根上もきれいに遮熱塗料で塗装されている。 光触媒コーティングが施された13号車の屋根上は、他の車両との光沢の違いがはっきり判ります。

  これは余談だが、空調に難ありで営業列車時代関係者泣かせだったJ1が、こうして冷房コストを抑えるための試験に一役買っている のも何だか皮肉な話である・・・

この光触媒の効果を利用することは、地球環境保全を促進。更に、省エネルギー化の実現などにつながるのである。



車外からの熱侵入を低減する研究・・・「新幹線車内冷房に対する 日射負荷軽減の研究」がJR東海総合技術開発部光触媒グループから発表された。この論文が、平成16年度全国 「車両と機械」研究発表会「論文」国土交通省鉄道局長賞を受賞しました。

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