ラルフ・イーザウ作 酒寄 進一訳
あすなろ書房 2000年
イギリスの寄宿学校生、14歳のジョナサン・ジェイボックは、6年前に歩く力を失った。それ以来、別の世界ネシャンの夢を見るようになる。はじめの夢では、ジョナサンと同じ年のみなしご、ヨナタンが漁師のナヴラン・ヤシュモンに拾われる。6年の間に夢の中でヨナタンがたくましく成長するにつれて、現実のジョナサンの体は弱っていった。
ある日穴に落ちたヨナタンは裁き司の杖、ハシェベトを持ち帰る。それは、天地創造の神イェーヴォーの力コアハを授ける杖、悪の創造主メレヒ=アレスの闇の力から、涙の地と呼ばれるネシャンを救うと予言される第7代裁き司が持つべき杖だったのだ。ヨナタンは英知の庭の第6代裁き司ゴエルに杖を届ける長く危険な旅に出ることになる。
この長く、そして、現実に起きているとしか思えないほど生々しい夢を見ている間、ジョナサンには夢の中で過ぎた時間と同じ時間の記憶がなくなっていた。
ジョナサンとヨナタンの笛が入れ替わっていたという不思議な出来事から、2人の間に強い結びつきがあることがわかる。ついに、ジョナサンは夢の中に入ってヨナタンに会う。果たして二人の関係は? 現実の世界はネシャンで、いつかジョナサンは消えてしまうのだろうか? それとも、ヨナタンの使命が果たされた時、ジョナサンの足が動くようになるのだろうか?
作者のラルフ・イーザウは仕事であるコンピューターの無味乾燥な世界からの逃避のために、ファンタジーを描き始めた。ネシャン世界についてもあらかじめ詳細に設定してあるそうだ。「モモ」「果てしない物語」のミヒャエル・エンデに見出され、精力的に作品を発表している。この「ネシャン・サーガ」も3部作の予定。壮大なネシャン世界での冒険は、始まったばかりだ。
作者はエンデの後継者と言われ、本書もファンタジー文学としては「ハリー・ポッター」の後、今一番注目されている。しかし、「ゲド戦記」や「指輪物語」とくらべると、物足りない思いはまぬがれない。現実世界と物語世界の2人の少年、ジョナサンとヨナタンの関係は、エンデの「果てしない物語」のバスチアンとアトレーユの関係に似ているが、アトレーユの愛馬が沼に沈んでしまったのに対し、ヨナタンは仲間を失うことはない。
それどころか、危機に遭うたびに親友のヨミや都合よく現れたベーミッシュのディン=ミキトに救われる。ファンタジーに深みを与える絶望や疑いや、果てしなく先の見えない苦しい旅を描ききっているとは思えないのだ。
現実の寄宿学校でのサー・メルモック校長やサミュエルとの会話や、祖父のジェイボック卿と年老いた執事アルフレッドのやり取りの方が、ずっと生き生きしている。
これから発行される第2巻に期待したいと思う。
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