約束の重さ |
「指輪物語」(J.R.R.トールキン)の世界で約束という言葉にこめられた意味は、この世界での意味よりもはるかに重い。長い年月が過ぎても、約束が消えることはない。時には死によってさえも、約束から逃れることはできないのだ。 ゴンドールでは、国王が不在でも他の者が王位につくことはなかった。デネソールの大公家は、千年もの間摂政として国を統治したが、それでも王になることはできなかった。 馬鍬砦の人々は、ゴンドールへの忠誠を裏切った罰として、死んだ後も決して休まることを許されず、死者の道を守っていた。何千年も後、アラルゴンに従いウンバールの海賊を打ち破った時、約束は果たされ、彼らの霊はやっと解放されたのだった。 指輪物語世界の神話と歴史の書である「シルマリルの物語」(J.R.R.トールキン)でも、約束は大きな役割を果たしている。人間の友と呼ばれたエルフの王フィンロド・フェラグンドは命を落とすことになることを知りながらも、シルマリル探索に出陣した。はるか昔に一人の人間に与えた約束を果たすために。竪琴と歌の名手であったフィンロドの地底での壮絶な戦いと、その無残な死のありさまは、この物語の中でもっとも私の心を揺さぶった場面である。 「シルマリルの物語」そのものが、シルマリルを取り戻すまでは戦い続けるという自らの誓約に縛られたフェアノールと息子たちの悲劇である。誓約は、誓いを立てた本人にさえも放棄することは許されない。誓いを立てたことを悩み、後悔しながらも、誓約を実行し続け滅んでいくエルフの姿に、私は憤りさえ覚えた。怒りにかられてなされた誓い、そして自らにも仲間たちにも害としかならない誓いを、なぜ守るのだろう。 しかし、この約束の重さによって、「指輪物語」は読者にとって単なる絵空事ではなくなった。約束は時を越えて果たされ誓約は命よりも重い。この理不尽なほどの約束の重さのゆえに「指輪物語」は忘れられない本となり、一度読んだ者は永遠にこの物語の中に住み続けることになるのである。 |
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