◆ 標準レンズを使用した撮影・・・ ◆
人間の視野に近い画角50°前後のレンズを標準レンズといっています。特徴は、自然な遠近感が得られ広角レンズのようなゆがみや遠近感 の誇張がないことから、列車の形式写真や一般の記録写真に適しています。しかし、その反面、画面が平凡になりがちなため、この標準 レンズをいかに使いこなすかが作者の腕のみせどころといえるでしょう。
新居跨線橋からの俯瞰
▼ 標準レンズがピッタリの浜名湖
浜名湖付近での撮影はこの標準レンズがものをいう。まずは、伝説の “T2サンデー白昼走行”を例にとって説明することにしよう。
▼ アンバランスな体勢では、リズムよく撮る
平成10年10月11日、東海道新幹線を白昼堂々と今は亡きあのT2が走った。丁度この日 、C0の試運転もあり 、沿線のあちらこちらでマニアが出没、 私も満を持しての出陣となりました。
はじめ、どこで撮ろうか迷ったが、7両編成のT2、浜名湖付近通過が14時台ということで 、新居跨線橋からの俯瞰撮影を選択しました。この場所は、車の往来が結構あるので 周囲に注意しなければならない。しかも、防護フェンスとガードレールの僅かな隙間に、アンバランスな中腰に手持ちでカメラを構え なければならないという条件が付く。その僅かな隙間だが、レンズが上下どちらかに数ミリ動くとその部分がケラレてしまう。そこで、 撮影はリズムよく行わなければならない。始めにカメラを構え全ての設定をし終えたら一旦隙間から カメラを外す。そして軽く深呼吸してリラックス。後は目的の列車を静かに待つのだ。
列車が来る時刻が近づいたらピントと露出の再確認をする。列車が見えてからシャッターポイントに到達するまでを計算すると、210q/hで 58m/s 列車が見え始める位置からここまでは約1q、従って17秒という答えがでる。この17秒間にカメラを構えて上下幅と水平状態を確認 すれば、後はこの体勢をキープしてシャッターを切るだけだ。ここまでの動作をいかにしてスムーズにリズムよくこなすかが、 アンバランスな体勢での撮影のポイントだ。
▲ @ H10.10.11 14:01 6975A T2
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新居跨線橋からの俯瞰 その2
▲ A H10.10.11 14:11 6909A C0
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▲ B H13.12. 3 11:31 971A G15
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▼ 車両の長さによってシャッターポイントや撮影範囲を 変える
東海道新幹線の場合、営業列車は全て16両だが、Dr.イエローの愛称で親しまれているT4,T5などは7両のためシャッターポイント と撮影範囲を若干変える必要がある。作例Aは@と同日に撮影したもので比較してみれば解かりますが、列車の長さによってその前後空間を どれだけ保つかなのである。そこで撮影範囲を、奥が第3浜名橋梁全景〜1番手前の架線柱左の蘇鉄が4本入る画面と決める。この範囲が丁度 50oなのである。つまり良好な視野と略同じということになる。そこで短編成の場合は5m程奥にシャッターポイントをずらし、55o程度にする と、略変わらぬ背景で浜名湖の雰囲気を出せる。作例Bは8両編成なのでこれもまた微妙に変えている。
▼ 新居跨線橋はフレーミングがすべて!
新居跨線橋からの撮影は、ズバリ、フレーミングが全てといえよう・・・もちろん基本的動作を置いてその次の話だが、ここでの撮影の 明暗は、空と地の比率にある! つまり、地が7で空が3ではなく、地が7.5で空が2.5でフレーミングすると、被写体と背景との バランスが最も良い。
ここでの撮影は、以外に難しく、撮れば撮るほど奥深さを実感するのですよ。これが解れば自分自身、ステップアップした証拠です!
ちなみに、西が100系を短編成化するにあたって 、絶対数の先頭車量数が足らなかった。そこで東海は、廃車の 負担を条件に東海〜西へ、廃車になる100系を8両に組成変更し、西に譲渡。但し、本当に西が欲しかったのは100系の顔の部分だけ だった・・・
50oにこだわる!
▼ 撮影範囲の比較
実際に標準レンズと中望遠レンズとで撮影したものを見比べれば、なぜ私がここは50oと断言するかお解りいただけると思います。
▲ C H 9. 9.21 11:55 83A J 1
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▲ D H 8. 5.26 14:33 2051A V3
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作例CDを見ると、画面右側に老木があるのに気がつきます。以前はこの老木が、画面右側の一つのアクセントになっていたのですが・・・ 平成9年12月上旬起きた火事で焼けてしまい跡形も無くなってしまいました。 老木があった頃はDのように150oで捉えた場合、このような位置でしか撮れませんでした。当然50oと比べると背景がゴチャゴチャして います。その点50oは、対角線を画面一杯に強調して撮れるためスピード感も伝わってくる。また、遠近感をも強調できてワイドで奥行き のある画面に仕上がります。だからこそ50oなのである!
第3浜名橋梁は、全長504m。作例Cの画面では、約1q/h分の距離が画面内に納まっていることになる。作例Dは、Cの3倍で シャッターポイントは、車両2両分、つまり50m先でシャッターを切っている。レンズの倍率が増えれば、当然画角は狭くなる。しかし、 画面内での被写体の動体速度は、CよりDの方が当然遅い。
晴れていても、靄がかかっているような初夏や梅雨の晴れ間などの撮影はDの方が良い。すっきりと晴れた日は、当然、湖や空の色の深み がでるのでCがお薦めである。また、車両の特徴によっても表現方法が変わるため、画角の選択は作者のセンスが問われる。
曇天の第3浜名橋梁
▼ 競艇新大橋側から狙う
夏季シーズンは、とかく晴天での日中の撮影はトップライトのためタブー視されがちである。しかしながら曇天では、強い紫外線が 雲を抜けてくるため、以外に露出がある。そこで普段は狙えないアングルを撮ってみるのも面白い。
▼ 意外とイケるんじゃない・・・
競艇新大橋側から狙う上り列車は、夏季シーズンの早朝であれば順光で撮れる。しかし、 比較的光量のある夏季シーズンの曇りの日を利用して日中でしか走らない列車を狙うことができる。
問題はフレーミングだが、曇天ということで、画面内の空の比率を少な目にし湖面を多く入れる。そうすることによって画面全体に重みが 出る。もともと青い空と青い湖が売りの浜名湖アングル。それをそのまま曇天で撮ると、コントラストのない白っぽい空が妙に間の抜けた 画面を作ってしまう。そこで、画面を3:7で処理。そして 湖の部分を画面右側に少し入れることによって、画面全体がやや不安定になるが、その分被写体の動きが強調される。そして、足元に注目 してほしい。車輪がはっきりと見える。 E 東海道新幹線 豊橋〜浜松 253KP付近
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上りに対して下りはというと・・・画面の比率は通常の4:6で処理した。Eと比べるとカメラポジションがややハイアングルのため、 こちらの方が画面全体のバランスが良いと判断したからだ。もうひとつ、曇りの方が車体そのものの本来の色がでる。但し、雲の量に もよるが、非常に適正露出が見つけにくいのも事実だ。EFの場合は、普段出難いサイドの青い帯の色が出ていることだ。 F 東海道新幹線 浜松〜豊橋 253KP付近
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ロケーションの変化が気になる新居跨線橋からの俯瞰
平成17年5月9日、久し振りにこの場所にやってきた。前回はいつだったかな?そうだ、平成16年10月17日、慰霊碑の撮影に来た時だった。 東海道新幹線は、開業40周年を迎えていた。その時ふと気付いたのだが、ここのロケーションも年を追うごとに悪くなっている。平成9年12月上旬 に起きた火事が発端といえよう。“自然の色”が自分達と同じ人間の、安易な行動によって破壊されてしまったのだ。
また、平成15年度上半期には浜名湖周辺の盛土区間の耐震強化工事が実施され、 盛土法面がコンクリートで覆われた。 その結果、益々ロケーションが悪くなった。撮影時、被写体がこの法面のコンクリートの色反射を車体側面にまともに受ける。そして、 この影響を考慮せねばならないという課題が一つ増えたのでした。
【 254KP付近の変化! 】
▼ 色反射基礎編でも述べているが、この色反射現象は、被写体の周囲に濃い色彩がある場合に、その色が被写体に反射して映り込んでしまうこと をいう。ここの場合は、太陽光が盛土法面で反射し、被写体側面に対して映り込む。丁度ライトアップしている様な格好になる。被写体が 白ならレフ板の 役目をしてくれるのだが・・・ 法面の白は最も反射率が高いということを常に頭に入れておくことだ。 また、脚立などを使用して、コレより更に 高い位置から狙うと列車の側面全体が真っ白になってしまう。特に黄色い車両についての撮影時は要注意だ! 東海道新幹線 浜松〜豊橋 254KP付近
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ここの法面も年々自然に馴染んできて今では、全体の背景に溶け込んだという感じになった。 東海道新幹線 浜松〜豊橋 254KP付近
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▼ 色反射の比較例・・・Dr.Yの場合
色反射の違いを実際の太陽の方位、高度であてはめると・・・*太陽 の方位、高度は、静岡での計算である。
東海道新幹線 浜松〜豊橋 254KP付近
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東海道新幹線 浜松〜豊橋 254KP付近
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東海道新幹線 浜松〜豊橋 254KP付近
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* ここでの撮影で、特に紫外線の強くなる5月は、画面全体が青白っぽくなったり、マゼンタの
発色が強く出たりする。
そこで、UVフィルターや
スカイライトフィルター、
などを使用するのも一つの手段である。また、透過光量を減少
させるNDフィルターを
を使用するのもひとつの手段である。NDフィルターは3種類あり、
作画表現で意図的にスローシャッターを切って撮影したいときや、絞りを開けて撮影したいときなどに使用する場合もある。
▼ ライトグレー、500系の場合
なんだ、かんだいっても、ここのロケーションに、一番自然にマッチするのがこの500系なのかもしれない!あと僅かなフル編成の500系 を、存分に撮っておく必要があると私は思うのであります・・・。 東海道新幹線 浜松〜豊橋 254KP付近
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名所・第3浜名橋梁
■ 同位置からの撮影
まずこの場所の撮影では、列車の顔をLCXラインケーブルの支柱の間できちんと抜かなければならない。これは撮影上の絶対条件です。 そして、撮影範囲、季節、時間帯、編成長による違いを比較してみました。
▼ 画面の比率名所、第3浜名橋梁の定番アングルは作品的にみて平凡な構図になってしまう 。ポイントとなる対角線が、 新居跨線橋からのアングルに比べて、弱いからだ。それは、対角線の角度がなだらかなためである。そして、被写体が画面の中央を右〜左 に動くため遠近感は強く出ない。近景は浜名湖、背景は空、このような場合は浜名湖:6 空:4の比率で分割すると安定した画面になり ます。5:5の比率だと平凡な画面を更に単純にしてしまいます。 G 東海道新幹線 浜松〜豊橋 253KP付近 |
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▼ 自然光を利用する平凡な画面に変化を与えるには、撮影時間をずらし自然光の力を借りるという手がある。作例GとHを比較すると判りますが、Hは 5月の昼頃に撮った定期直通ひかり0系オリジナル編成。太陽は略真上に位置し、トップライトぎみ。Gは500系の東京乗り入れに伴う 常務員訓練運転を施行していた時のもので、日の入り20分前、太陽光はレベル位置に近いローエレベーションだ。このように、被写体に 対する光線位置の違いによって、同じ場所で撮影したにもかかわらず二つは明らかに異質 の作品に仕上がっています。自然光をうまく利用して撮ることは、作品を表現する上で効果的なやり方であるといえよう。 H 東海道新幹線 浜松〜豊橋 253KP付近 |
■ 編成車両の違いと構図
次に、第3浜名橋梁定番アングルを、編成長の違いによる構図で比較してみることにしよう。動きのある構図に おける対角線が示す意味を 理解してもらいたい。
▼ 撮影範囲の違い 1当然ながら、電気軌道総合試験車の場合だと7両編成のため、画角を狭くし、フレーミングをやや左寄りにする。その分、GHJよりも 対角線の角度がなだらかに見えるので、益々平凡な構図になってしまう。つまり、画面内での動きが減ってしまう。それと、架線柱の縦の 線が強く出てしまう。縦の線は、列車の顔をLCX支柱の間にくるようにフレーミングすれば、黄金比で画面に納まるので問題なし。また、 黄色と青い空との組み合わせで色彩が豊かに強く前に出ている。また、よく いうところの日立製と日車製の黄色の違いが判るので、記録写真としてはいいのかもね。 I 東海道新幹線 浜松〜豊橋 253KP付近 |
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▼ 撮影範囲の違い 2Jは、16両編成に合わせて撮影範囲を決めてみた。GHより若干画角を狭くしてある。その分、第3浜名橋梁のカーブの表現、いわゆる 対角線がGHより若干弱くなってしまう。つまり、動きのある構図において、同じ角度の対角線は撮影範囲を広く すれば強くなり、狭いと弱くなる。また、対角線の角度が急な程強く、なだらかだと弱いということである。 J 東海道新幹線 浜松〜豊橋 253KP付近 |
* 第3浜名橋梁定番アングルは、やはり橋脚や橋桁にまで光線が回り込む冬季の昼下がりがベスト
といえよう。
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